II-P-154
右冠動脈のhigh take offを伴った心室中隔欠損症の 1 治験例
社会保険中京病院心臓血管外科
野中利通,野田 怜,波多野友紀,杉浦純也,加藤紀之,水谷真一,櫻井 一

【背景】先天的冠動脈解剖学的異常は人口の0.2~1.2%に認められると報告されていて,その種類も大動脈における冠動脈の起始異常,冠動脈瘻,冠動脈の肺動脈起始症,心内奇形を伴う二次的な異常に大別される.これらのうち冠動脈起始異常症は心臓カテーテル検査を行った0.03~0.7%に認められ,起始部の位置異常とその走行が臨床的に問題となることがある.今回,人工心肺の送血部位に工夫を要した右冠動脈(RCA)high take offの症例を経験したのでその外科治療について検討した.【症例】2 歳女児.【主訴】心雑音.【現病歴】新生児期からVSDの診断で定期受診中にエコー上RCCPを認めるようになったため手術考慮.【心エコー】VSDはperimembranous outlet型.ARはtrivialでRCCP(+).【心臓カテーテル検査】VSDを介して左右シャントを認め,肺体血流比1.68.肺体血圧比0.38.ARは明らかなものはなくRCCP(+).RCA起始部はsinotubular junction(STJ)より約20mm末梢側の小弯側で大動脈前面を走行していた.【手術】RCA起始部が腕頭動脈起始部の10mm中枢側に存在していたため通常の上行大動脈遮断は困難であると判断し,腕頭動脈・弓部大動脈にそれぞれ送血管を挿入し,上下大静脈脱血で人工心肺を確立し,上行大動脈末梢で遮断し順行性心筋保護液を注入し心停止下にVSDパッチ閉鎖術を行った.【術後経過】周術期の心筋虚血所見は認めず術後10日で退院.【考察】冠動脈のhigh take offはまれな所見で左より右冠動脈で多く認められ,たいていは上行大動脈の近位側(成人でValsalva洞から 2cm以内)で認められる.今回われわれが経験したような腕頭動脈・弓部大動脈それぞれに送血を要したRCA high take offの症例は報告されていない.術前検査でhigh take offが明らかであれば術中大動脈クランプによる冠動脈損傷は回避され安全に手術が施行されるので,カテーテル検査もしくは3DCTによる冠動脈起始部の確認が手術戦略に重要であると考えられる.

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