II-P-172
大動脈弁置換術を施行したムコリピドーシス 3 型の兄妹例
北海道立子ども総合医療・療育センター循環器科1),手稲渓仁会病院心臓血管外科2),小児循環器科3)
横澤正人1),阿部なお美1),高室基樹1),畠山欣也1),八田英一郎2),俣野 順2),衣川佳数3),佐々木康3)

【はじめに】ムコリピドーシス 3 型はN-acetylglucosamine-1-phosphotransferase欠損を基本病態とするリソソーム病である.糖蛋白の蓄積により全身の結合織を中心にさまざまな病変が進行する.心血管病変,特に弁膜病変が重要な予後因子とされるが,手術例の報告はまれである.われわれは大動脈弁置換術(AVR)を施行した兄妹例を経験したので報告する.【症例】〈症例 1〉15歳,男児.10歳時にガルゴイル顔貌,低身長,著明な後彎,関節拘縮,精神運動発達遅滞を指摘され,尿中ムコ多糖体,オリゴ糖のスクリーニング検査,リンパ球,血清ライソソーム酵素活性の結果から上記と診断された.軽度の大動脈弁閉鎖不全(AR)を認めていたが徐々に進行し 3 度となった.1 度の僧帽弁閉鎖不全(MR),左室収縮能低下を認めたためSJM 19mm弁を用いてAVRを施行した.〈症例 2〉12歳,女児.6 歳時に兄と同様の主訴で精査され上記と診断された.軽度のAR,中等度のMRを認めていたが,その後ARが進行し 3 度となったためSJM 17mm弁を用いてAVRを施行した.2 例とも支持組織の脆弱性が懸念されたが,合併症なく手技を終了した.人工心肺からの離脱,術後経過も良好であった.抗凝固剤,抗血小板剤,ACE阻害剤を内服中である.症例 1 は術後 3 年 9 カ月,症例 2 は 2 年11カ月を経過しているが,MRの進行は認められていない.【考察】本症は欧米での報告は散見されるが,本邦ではまれな疾患である.心血管病変の自然歴は不明な点が多く,弁膜病変に関しても組織の脆弱性を含めた手術適応や手技の問題,手術時期,術後経過についてまとまった検討はされていない.まれな疾患であるがために,症例 1 は組織の脆弱性を懸念した結果,手術時期が遅れた.本症のようにまれな疾患の単独施設での手術経験は限られている.今後は全国レベルで症例が蓄積されることを期待したい.

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