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左冠動脈肺動脈起始症を合併した左室心筋緻密化障害の 1 例
宮崎県立宮崎病院小児科
西口俊裕

【はじめに】心筋緻密化障害(NCLV)に合併する心奇形は,欧米からの報告とは異なり,本邦においては心室中隔欠損,心房中隔欠損,弁膜疾患などが多く,左冠動脈肺動脈起始症(Bland-White-Garland syndrome:BWG)の報告はない.今回,著しい心機能低下のため手術時期の判断に苦慮した 1 例を経験したので報告する.【症例】10歳の女児.主訴:多呼吸,頻脈.周産期歴:特記事項なし.家族歴:特記事項なし.生直後より多呼吸はみられていた.4 カ月時に紹介受診,胸写上心胸郭比(CTR)は70%と著明な心拡大を認め,心エコー図では左室は著しく拡大し,左室駆出率(EF)18%,僧帽弁閉鎖不全 2 度であった.また,左室後側壁から心尖部にかけて櫛状の構造物を認めNCLVと診断したが,主肺動脈後面に拡張期に流入する血流を認めBWGあるいは冠動脈瘻の合併を疑った.【経過】心不全に対して塩酸ドパミンおよび利尿剤で治療を開始,心機能も徐々に改善しEF 41%の時点で退院とした.退院前に実施した心臓カテーテル検査では肺高血圧はなく,左室造影では前壁側壁下壁に肉柱形成を認めた.大動脈造影では左冠動脈は右冠動脈よりの側副血行によりsupplyされ,肺動脈と交通しており確定診断に至った.手術は待機し強心剤,利尿剤,ACEIで加療を行ったが再び心機能は増悪し,EFは 1 歳時28%,2 歳時20%と推移した.3 歳ころよりEF 32%と改善傾向となり,4 歳時43%,就学前44%,7 歳時50%,CTRも54%と改善しBWGの手術を検討したが社会的要因で10歳時となった.術後経過は良好である.【考察】心奇形を合併した乳児期発症NCLVの予後は不良とされている.どの時点で手術をすべきか判断に迷ったが,心不全の要因にはBWG,NCLVともに考えられたため心機能が安定化するまで待機した.NCLVの臨床像は多様であり,今後も注意深い観察が必要である.

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