II-P-90
妊娠後期に胎児水腫を来した胎児心筋症の 1 例
山梨県立中央病院総合周産期母子医療センター新生児科1),山梨大学医学部小児科2)
内藤 敦1,2),星合美奈子2),角野敏恵2),勝又庸行2),喜瀬広亮2),杉田完爾2)

【背景】新生児期発症の心筋症の報告は散見されるが胎児期に診断された報告は少ない.今回,妊娠後期に突然の胎児水腫を来して発見された胎児心筋症を経験したので報告する.【症例】在胎30週 2 日,体重1,682gで出生した男児.【経過】妊娠28週 2 日の妊婦健診においては児の発育も良好であり,心不全徴候は認めなかった.妊娠30週 2 日の健診で胎児心不全徴候と腹水貯留を認めたため当院に母体搬送された.当院受診時CTAR 43.9%,preload index 0.77,non-stress test上,variabilityの減少を認め緊急帝王切開で出生した.出生時,弱い啼泣を認めたが自発呼吸は不十分で心音は減弱しており,手術室において気管内挿管後NICUに搬送した.入院時HR 164/min,BP 48/25mmHg,SpO2 92%(FiO2 1.0),全身の浮腫と腹水貯留を認めた.臍帯血液ガスpH 6.892,BE-19,入院時血液検査BNP 3,620pg/ml,Lac 50mg/dl,CPK 508IU/lと心不全所見を認めたが,非心原性胎児水腫の原因となり得る疾患の合併は認めなかった.心エコー上,左室壁は全周性に薄く動きは非常に不良であり心筋緻密化障害の所見を認めたが,それ以外に冠動脈奇形を含めた心奇形や明らかな不整脈は認めなかった.Catecholamineに対する反応は不良であり,日齢 4 よりhydrocortisone投与を開始したところ血圧の上昇と排尿が認められた.日齢20には体重1,244g(-26%)まで減少しBNPも128pg/dlまで低下,日齢40に抜管し,日齢58よりrate-control目的にdigoxinを開始した.日齢98に体重2,000gを超えた頃より再び心不全の増悪傾向を認めたため,現在β-blocker導入を検討している.【考察】早産児の心筋特性を考慮し早期のβ-blocker導入を控えて,心不全コントロールに急性期にはsteroid,慢性期にはdigoxinを用いることで成熟と体重増加を計った.胎児心筋症は妊娠後期の循環血液量の増加に伴い急速に症候化する可能性があり,胎児水腫の鑑別には本疾患も考慮すべきと考えられる.

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