II-P-92
P波異常で発見された三心房心—隔壁内に特殊心筋を認めた 1 例—
脳神経疾患研究所附属総合南東北病院小児科1),小児心臓外科2),小児・生涯心臓疾患研究所3)
工藤恵道1),遠藤泰史1),金子真理子1),森島重弘2),小野隆志2),中澤 誠3)

【背景と目的】三心房心は,左房が異常隔壁により肺静脈の還流する副室と,左心耳や僧帽弁に続く本来の左房とに分かれている心奇形である.先天性心奇形の0.1~0.4%とまれな疾患であり,乳児期発症例では肺うっ血の症状で,幼児期以降は偶然見つかることが少なくない.われわれは2008年にP波異常で見つかった三心房心の診断,精査,手術を通して,術後のP波変化と切除した異常隔壁内特殊心筋の関連が示唆されたので報告する.【症例】10歳男児,小学校 1 年時の学校健診心電図で接合部調律を指摘され当科受診,心電図上,冠静脈調律/左房調律でP(2)-0.5mVの高電位P波であった.X線撮影で肺うっ血を認め,心エコーで三心房心(1A型:Lucas & Schmidtの分類)の確定診断に至った.心エコーと造影CTでは心房中隔に沿うようにslit状の交通孔があり,突然の閉塞機転から強い肺うっ血が危惧されたため手術適応と考えた.心臓カテーテル検査ではPAp22/12(16),PAwp(15),LVEDp(6),副室最大容量67mlと肺うっ血はあったが肺高血圧は認めなかった.手術は右房からのアプローチで,心房中隔付近下方で隔壁にslit状 7mmの交通孔が確認でき僧帽弁は右房側からは全く見えなかった.切除された隔壁は 3mmほどの厚さがあり性状は心房壁様であった.術直後心電図はすでに冠静脈洞調律/左房調律は消失し正常洞調律を認めるのみであった.切除した隔壁の病理組織診では,比較的密なfibrous tissue内に心筋細胞の大小の集塊を認め心房組織と判断された.このほかに線維組織に囲まれた空胞に富んだ細胞群があり,これが特殊心筋と思われた.HCN4(hyperpolarization-activated cyclic nucleotide-gated potassium channel 4)を用いた免疫染色法による同定を急いでいるところである.【結語】P波異常で見つかった三心房心の隔壁内特殊心筋とP波起源との関連が示唆された.

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