II-P-93
長期中心静脈栄養管理中にたこつぼ型心筋障害を発症し拡張型心筋症に移行した 1 剖検例
福岡大学医学部小児科1),循環器科2)
吉兼由佳子1),橋本淳一1),福田佑介2),佐光英人2),廣瀬伸一1)

【はじめに】たこつぼ型心筋障害とはなんらかのストレスが誘因となる可逆的な左室機能障害であり,比較的予後良好な病態とされている.今回われわれは長期の中心静脈栄養管理(TPN)中にたこつぼ型心筋障害を発症し拡張型心筋症に移行し死亡した症例を経験し剖検を行ったので報告する.【症例】17歳男児.在胎30週,1,461gで出生し,壊死性腸炎により広汎小腸切除術を受けた.以後,短腸症候群として長期にわたりTPNを行っていた.カテーテル留置に関係した三尖弁閉鎖不全を有していた.15歳時,感情的ストレス後に突然の胸痛と心不全症状が出現し,心エコー上著明な左室心尖部の収縮能低下がみられたため,たこつぼ型心筋障害と診断された.しかしながら,その後左室壁運動障害が広範囲に進行し,かつ不可逆的な経過となった.長期のTPN管理中であったが,経過を通じ電解質や微量元素には異常なかった.小腸からの吸収不全が高度で,薬物経口投与が不可能であり,利尿薬,強心薬,抗凝固薬の点滴注射により加療した.海外渡航による小腸心臓同時移植も考慮されていたが,17歳でうっ血性心不全にて死亡し,病理解剖を行った.広範囲にわたる心筋細胞肥大,線維化,および左室後壁の一部に梗塞巣を認め,拡張型心筋症の診断であった.冠動脈には異常はなかった.【考察】本症では可逆性で予後良好であるとされるたこつぼ型心筋障害が拡張型心筋症に移行したものと判断した.その原因は不明であるが,本症例では短腸症候群のため長期にわたり行われていたTPNや,それによるなんらかの栄養障害の関与,三尖弁閉鎖不全の関与などが疑われた.以上から,患者のさまざまな要因により,たこつぼ型心筋障害が不可逆的変化を起こし得ることが示唆された.

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