日本小児循環器学会雑誌 第26巻 第1号(49-53) 2010年
著者
宇野 吉雅,森田紀代造,山城 理仁,篠原 玄,村松 宏一
所属
東京慈恵会医科大学心臓外科
要旨
背景:Fontan循環確立後遠隔期の抗凝固療法の緩和については,いまだその指標となる明確な基準が確立しておらず議論の多いところではあるが,当施設では術後遠隔期の凝固・線溶系機能を評価し,それを指標として抗凝固療法の緩和を行ってきた.今回extracardiac conduit型Fontan(ECC-Fontan)術後遠隔期の凝固・線溶系機能の経時的変化を評価するとともに,その経過による抗凝固療法緩和の妥当性について検討を行った.
方法:2002年12月~2006年12月に当施設にて手術を行ったECC-Fontan手術症例連続16例(Fontan到達年齢:平均4.2歳)を対象とした.術直後より遠隔期にわたりthrombin antithrombin-3 complex(TAT)およびα2-plasmin inhibitor-plasmin complex(PIC)を経時的に測定し,その推移により術後の凝固・線溶系機能の評価を行い,抗凝固療法の緩和(warfarinから抗血小板薬内服に変更)を行った.
結果:術後観察期間は最長60カ月.対象症例に遠隔期死亡あるいは血栓塞栓症発症に関連した合併症例なし.測定結果においてTAT,PIC値は術後3カ月以内では全例高値を示し亢進状態であったが,6カ月以降は低下傾向を示し12カ月以降はほぼ正常化した.この結果より術後1年を目安に原則投与していたwarfarinを中止し抗血小板薬へ移行しているが,それ以降も両項目の測定値は正常範囲内で推移し,また血栓塞栓症の発生も認められていない.
結論:ECC-Fontan術後1年は凝固・線溶系機能ともに亢進状態にあると考えられwarfarinによる抗凝固療法が適切と考えられたが,両機能が正常化してくる1年目以降はその結果により抗凝固療法を緩和するという治療方針は妥当であると思われた.
平成21年6月8日受付
平成21年9月24日受理
キーワード
postoperative anticoagulation,extracardiac conduit Fontan procedure,coagulation abnormality
別冊請求先
〒105-8461 東京都港区西新橋3-25-8 東京慈恵会医科大学心臓外科 宇野 吉雅