日本小児循環器学会雑誌 第24巻 第2号 2008年

東京女子医科大学循環器小児科
中西 敏雄

安全な病棟

 先天性心疾患患者の突然死のリスクは高い.乳幼児で気道の問題や呼吸障害を合併している場合の突然死,短絡術後でおそらく短絡血管の急な閉塞による突然死,術前,術後の不整脈による突然死,血栓,塞栓による突然死,術後心不全状態での突然死,RastelliやFontan術後の突然死,心筋炎や心筋症での突然死,心疾患のない不整脈での突然死などがある.自宅で死亡,外出していて死亡,病院で死亡,いろいろである.運動時の死亡もあれば,排尿,排便などのトイレでの死亡もある.採血のストレスのみで突然死することもある.
 自宅で家族がいるところでの死亡は医療安全上問題となることは少ないが,病院での突然死は問題である.病院での突然死は,家族にしてみれば,「病院にいるのだから死ぬことはないだろう,入院していながらなぜ死ぬのか」といった気持ちになる.病院で急変しても「ただちに気づいてくれて,ニアミス程度に収まって,病院にいてよかった」という状況を期待するであろう.
 ところが,医療従事者側にしてみれば,「それは過度の期待ですよ,24時間一瞬たりとも見逃さず監視していることは無理です」という気持ちになる.はたして全患者を24時間一瞬たりとも見逃さず監視することは可能であろうか.
 心電図モニターや呼吸モニター,酸素飽和度モニターでの監視が行われている.しかし,全患者にモニターを着けることは現実的ではない.まず,どの患者にモニターを着けるかが問題となる.モニターを着けていない患者が突然死した場合,なぜ着けていなかったかが問題となることがある.われわれはモニター装着基準を作って,その基準に則って,毎朝,モニターを着ける患者,外す患者を決定している.しかし,その装着基準の妥当性はいまだ不明である.
 またモニターを着けた場合でも,常時監視することは可能であろうか.現実に突然死が発生した現場では,常時に近い形で監視することを患者側から要求されている.そこで,モニター監視を誰がどのように行うかが問題となる.多くの施設では,警報音が鳴ると看護師,医師がモニター画面を視認して確認するシステムであろう.ところが,看護師や医師は他の業務を行いながらのモニター監視となる.とても専用の業務にはできない.そこでモニター音に頼ることになるが,多数の患者にモニターが着いていると頻回に警報音が鳴る.小児では泣いたり,暴れたり,ベッド上で動いたり,病棟内を走り回ったりする.成人のようにベッド上で静かに本を読んで安静にしていたり,歩くときもゆっくり歩いたりすることは少ない.体動でモニター画面での心電図波形が揺れ,不整脈と器械が誤感知して警報音を鳴らす.かくして疑陽性の警報音が頻回に鳴り,しだいに医療従事者は,「どうせまた疑陽性警報音だ」と思ってしまう.また,モニター画面を見なければ,同一患者から繰り返し警報音が鳴っているのか,複数の異なる患者から断続的に警報音が鳴って連続して聞こえるのかはわからない.同一患者から繰り返し警報音が鳴っている場合には真の陽性のことが多い.
 モニターは設定条件によって,それに合致すれば警報音が鳴る仕組みになっている.われわれの病棟では,個々の患者での設定条件の変更によって,疑陽性警報を減らす努力や,できるだけモニター関連の音がでないように努力はしている.正常の心拍音は消したり,電極の位置を変えて疑陽性を減らしたり,患者の年齢や基礎心拍数によって設定を変えたりといったことも行っている.それでも警報音は鳴る.しかし,それが真の陽性の警報であることは極まれである.
 モニターがモニターとして機能するためには,疑陽性警報音を減らすことが必要である.メーカー側もそ安全な病棟
 先天性心疾患患者の突然死のリスクは高い.乳幼児で気道の問題や呼吸障害を合併している場合の突然死,短絡術後でおそらく短絡血管の急な閉塞による突然死,術前,術後の不整脈による突然死,血栓,塞栓による突然死,術後心不全状態での突然死,RastelliやFontan術後の突然死,心筋炎や心筋症での突然死,心疾患のない不整脈での突然死などがある.自宅で死亡,外出していて死亡,病院で死亡,いろいろである.運動時の死亡もあれば,排尿,排便などのトイレでの死亡もある.採血のストレスのみで突然死することもある.
 自宅で家族がいるところでの死亡は医療安全上問題となることは少ないが,病院での突然死は問題である.病院での突然死は,家族にしてみれば,「病院にいるのだから死ぬことはないだろう,入院していながらなぜ死ぬのか」といった気持ちになる.病院で急変しても「ただちに気づいてくれて,ニアミス程度に収まって,病院にいてよかった」という状況を期待するであろう.
 ところが,医療従事者側にしてみれば,「それは過度の期待ですよ,24時間一瞬たりとも見逃さず監視していることは無理です」という気持ちになる.はたして全患者を24時間一瞬たりとも見逃さず監視することは可能であろうか.
 心電図モニターや呼吸モニター,酸素飽和度モニターでの監視が行われている.しかし,全患者にモニターを着けることは現実的ではない.まず,どの患者にモニターを着けるかが問題となる.モニターを着けていない患者が突然死した場合,なぜ着けていなかったかが問題となることがある.われわれはモニター装着基準を作って,その基準に則って,毎朝,モニターを着ける患者,外す患者を決定している.しかし,その装着基準の妥当性はいまだ不明である.
 またモニターを着けた場合でも,常時監視することは可能であろうか.現実に突然死が発生した現場では,常時に近い形で監視することを患者側から要求されている.そこで,モニター監視を誰がどのように行うかが問題となる.多くの施設では,警報音が鳴ると看護師,医師がモニター画面を視認して確認するシステムであろう.ところが,看護師や医師は他の業務を行いながらのモニター監視となる.とても専用の業務にはできない.そこでモニター音に頼ることになるが,多数の患者にモニターが着いていると頻回に警報音が鳴る.小児では泣いたり,暴れたり,ベッド上で動いたり,病棟内を走り回ったりする.成人のようにベッド上で静かに本を読んで安静にしていたり,歩くときもゆっくり歩いたりすることは少ない.体動でモニター画面での心電図波形が揺れ,不整脈と器械が誤感知して警報音を鳴らす.かくして疑陽性の警報音が頻回に鳴り,しだいに医療従事者は,「どうせまた疑陽性警報音だ」と思ってしまう.また,モニター画面を見なければ,同一患者から繰り返し警報音が鳴っているのか,複数の異なる患者から断続的に警報音が鳴って連続して聞こえるのかはわからない.同一患者から繰り返し警報音が鳴っている場合には真の陽性のことが多い.
 モニターは設定条件によって,それに合致すれば警報音が鳴る仕組みになっている.われわれの病棟では,個々の患者での設定条件の変更によって,疑陽性警報を減らす努力や,できるだけモニター関連の音がでないように努力はしている.正常の心拍音は消したり,電極の位置を変えて疑陽性を減らしたり,患者の年齢や基礎心拍数によって設定を変えたりといったことも行っている.それでも警報音は鳴る.しかし,それが真の陽性の警報であることは極まれである.
 モニターがモニターとして機能するためには,疑陽性警報音を減らすことが必要である.メーカー側もそのことは重々承知していて,さまざまな解析アルゴリズムが開発されてきた.しかしいまだ,人間の目にははるかに及ばない.将棋ではプロにも勝つソフトが開発されている時代にしては,開発が遅れている.大幅に疑陽性警報音を減らしたモニターが開発できれば売れるであろう.ぜひメーカー側の開発の努力をお願いしたいところである.
 次に,モニター監視を誰が行うか,という問題がある.ICUや CCUであれば,ナースステーションに置かれたモニターはほとんど常に監視される.しかし一般病棟で,常にモニターに目が行き届くようにすることは不可能である.夜間であればなおさら,短時間でもナースステーションが無人になる時間が発生する.国の基準では小児科病棟に配置される看護師の数は,成人と同じである.多忙な小児科病棟や循環器科病棟で,医師業務や看護業務を行いながら,医師,看護師が常時モニターに目を光らせることは難しい.かくして疑陽性(であろう)警報音は鳴り続けるのである.
 われわれの病棟では,看護師が交代で,看護記録の記入などの作業を行いながらではあるが,モニター監視を専属で行う体制をとっている.その体制の有効性は今後,検証されるであろうが,一つの試みである.少ない看護師,医師人員で安全を確保せねばならないわが国の現状では,そのほかにもいろいろな試みをしていく必要がある.
 モニターの精度向上の努力をはらう一方,病棟内の突然死をモニターで防止できるか,モニターの実効性を検証する研究も重要である.そのためには全国での小児循環器科病棟内の突然死とニアミス例の集積を行う必要がある.そのなかで,モニターの実効性を検証していく必要がある.
 平成20年度には国は小児医療に対して財政補助を増やす方針のようである.ただし,小児科の保険点数を上げても,病院にお金が入ってしまっては,直接安全性向上にはつながらない.国の小児医療に対するさらなる財政援助と,それが小児科病棟,循環器科病棟の安全性向上のために使われるような仕組みが必要である.具体的には,小児循環器科病棟に配置される看護師や医師の数を増やせるように,予算措置が組まれるべきである.

安全なカテーテル

 循環器小児科ではカテーテルもリスクが高い.カテーテル前には家族にリスクについて話し,承諾書をもらうわけであるが,われわれの施設のカテーテル説明書には詳細なリスクについての記載がある.さらに,個々の患者に特化したリスクを記載する欄も設けて,説明している.
 そのようにしてカテーテルのリスクについて重々説明しても,家族には,「カテーテルで死ぬことはないだろう」という気持ちが根底にあると私は認識している(データはない).両親にカテーテルの説明をする際に,両親のどちらかが多忙の理由で来られないことがある.一方,手術の説明の時には,両親のどちらかが多忙の理由で来られないという事態は聞いたことがない.それほど,家族の認識や覚悟に,カテーテルと手術で差があるのだと思う.
 実際にカテーテルで不具合が発生すると,安全上大きな問題となる.家族の,「カテーテルで死ぬことはないだろう」という根底にある気持ちが表に出てくるためと思う.手術での不具合に比して,カテーテルでの不具合が問題視される確率は高い.家族からのみならず,時には警察,司法からの問題視(業務上過失傷害,致死疑い)もあり得る.
 カテーテル検査・治療に従事する者としては,リスク対策は,リスクをよく認識することに尽きると思う.トロント小児病院のデータでは,カテーテル治療と新生児,乳児でのカテーテルが高リスクとなっている.われわれの経験では,そのほかに肺高血圧があったり,Ebstein病など特定の疾患でリスクが高いと認識している.また,蘇生の既往があったり,高度の心不全患者,重度不整脈患者でもリスクが高くなる.
 リスクを認識したうえでなすべきことがいくつかある.一つは,リスクを施設内で共有し,医師,看護師,技師,管理者など多職種の関係者が納得することである.循環器小児科内でも,カテーテル治療を行う医師のみでなく,実際に施行しない医師も納得している必要がある.施設内のコンセンサスが得られるためには,適応がしっかりしていることと,医師がカテーテル施行の技量を持っていることが重要である.
 われわれは,個々の患者でカテーテルのリスク点数付けを行い,