日本小児循環器学会雑誌  第24巻 第6号(671) 2008年

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著者

佐地  勉

所属

東邦大学医療センター大森病院小児科 日本小児循環器学会臓器移植委員会

要旨

臓器移植法の成立後,すでに10年近くが経過したが,日本はいまだに世界のなかで移植推進国の仲間入りができておらず,アジア諸国にも後塵を拝している.世界からも,“臓器売買を黙認している”“他国の人々に提供されるべき臓器が先んじて提供されている”等々,明白な非難が始まっている.
 日本小児科学会会員へのアンケートにより会員の多くの意思は移植推進に向いていることが明らかになっているにもかかわらず,“病める子どもたちに早急に光をあてよう”とする明白な方向性がみられないのは不思議である.移植法の立法に関わる国会議員のなかには「日本の小児科医は子どもの移植に積極的意見表明をしていない」という意見が定着しているのには首を傾げざるを得ない.不治の病に苦しむ子どもとその親を助けようという小児科医の“こころ”はどこに隠れてしまったのであろうか.
 国への啓蒙活動を地道に行っている臓器移植関連学会協議会には,日本小児外科学会,日本小児循環器学会,日本小児腎不全学会,日本小児肝臓病学会,日本小児呼吸器学会という組織も加盟している.
 本来移植医療では,たとえば脳死の医学的解釈,哲学的・生命倫理的解釈,自己決定権,少年法など,さまざまな領域からの解釈が交差する.しかし,これはいつの時代も,どこの地域においても,どんな宗教においても議論となり得る永遠の宿題である.しかし忘れてはいけないのが,決して移植医療を邪魔するものであってはいけない,ということを改めて確認したい.
 移植医療は,「人の死を脳死と理解したうえで,臓器を提供したい,子どもの臓器を提供させたい」という尊い提供の意思が表明されて初めて成り立つものである.この権利は決して邪魔されるものでないはずである.ここからスタートして,どのようにスムーズに,どのように正しく,臓器が提供されるかに携わるのが医師である.
 提供者にも,移植者にも,そして提供に関わる移植外科医や管理に当たる内科医にも,それぞれの“こころ”が存在する.2008年 7 月に行われた第44回日本小児循環器学会総会・学術集会のシンポジウムで「心臓移植“こころ”からの視点」が取り上げられた。このような“こころ”のテーマが取り上げられたのは初めてのことと思われる.これがきっかけとなって,何かが変わることを期待したい.

キーワード

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