日本小児循環器学会雑誌 第24巻 第6号(697-704) 2008年
著者
内藤 幸恵1),里見 元義1),安河内 聰1),金子 幸栄1),打田 俊司2),原田 順和2)
所属
長野県立こども病院循環器科1),心臓血管外科2)
要旨
背景:近年,診断および治療戦略の進歩に伴い左心低形成症候群(hypoplastic left heart syndrome:HLHS)の治療成績は改善してきたが,心房間交通狭小化(restrictive foramen ovale:RFO)を伴う症例では予後不良である.当科におけるRFOを伴うHLHSの治療成績と予後について後方視的に臨床面と病理面から検討した.
対象・方法:対象は1995年 1 月から2007年 2 月までに当院で経験したHLHS43例を,初診時より心房間交通狭小化または閉鎖していた群(R群,n = 9),心房間交通に問題を認めなかった群(N群,n = 34)に分類し,2 群間の周術期臨床所見,R群における剖検例の臨床病理所見を検討した.
結果:Norwood手術(NW)術後の生存率はR群で22.2%(2/9),N群は76.4%(26/34)で有意にR群で生存率が低かった.R群ではN群と比較し,出生直後およびNW術後急性期の低酸素血症が強く,また,術後経過中,難治性胸水貯留と閉塞性黄疸が特徴的だった.肺病理所見では肺小動脈の低形成,肺小動脈の中膜肥厚(叢状変化)の血管性病変以外に,肺リンパ管拡張,肺気腫,間質の肥厚が高頻度で認められた.肺小動脈低形成がない症例でも予後が悪く,肺リンパ管拡張や間質の肥厚なども予後に影響する要因と考えられた.
結語:心房間交通に問題を有するHLHSの予後は不良で,原因として肺微小循環障害,二次的な肺実質障害が関与していた.これらの病因論を考慮すると,救命のためには胎児期からの介入を考慮する必要がある.
平成19年12月26日受付
平成20年9月16日受理
キーワード
restrictive foramen ovale,hypoplastic left heart syndrome,pulmonary vasculature
別冊請求先
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