日本小児循環器学会雑誌  第24巻 第6号(707-713) 2008年

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著者

根本慎太郎1),佐々木智康1),小澤 英樹1),勝間田敬弘1),井上 奈緒2),尾崎 智康2),奥村 謙一2),森  保彦2),片山 博視2),玉井  浩2)

所属

大阪医科大学附属病院心臓血管外科1),小児科2)

要旨

背景・目的:Phosphodiesterase 5 型を選択的に阻害し肺組織および細胞内cGMP濃度を維持することにより一酸化窒素吸入に匹敵する肺血管拡張作用をsildenafilが有する報告が近年増加している.2003年からわれわれは先天性心疾患に対する開心術後急性期にしばしば発生する遷延性肺高血圧に対する治療に経口sildenafilを用いてきた.本研究ではこの治療の有効性につき経口sildenafilが投与された90例の記録を後方視的コホート調査した.
対象・方法:年齢分布;1 カ月未満25例,1~6 カ月未満29例,6~12カ月未満17例,1~3 歳 8 例,3~9 歳 9 例,および10歳以上 2 例.施行手術;心室中隔欠損(ventricular septal defect:VSD)閉鎖16,大動脈スイッチ30(うちVSD閉鎖施行17),総動脈幹修復10,完全房室中隔欠損修復10,総肺静脈還流異常修復 6,心房中隔欠損(atrial septal defect:ASD) + VSD閉鎖 2,両方向性Glenn術 2,大動脈肺動脈中隔欠損修復 1,Fontan手術 1,その他開心術12.患者家族の同意の下 1 回量0.5mg/kgのsildenafilを経鼻胃管から注入を開始.厳重な監視下に 4~12時間ごとに0.5mg/kgずつ段階的に増量し,最大2.0mg/kgを 4~6 時間ごとに注入.呼吸器離脱・併用静注薬終了後段階的にsildenafilを漸減終了した.64例に一酸化窒素吸入が先行投与されていた.
結果:肺動脈圧の連続モニターが可能であった26例では,sildenafilの投与後に同圧の降下20例,不変 5 例,上昇 1 例であった.sildenafil投与後に一酸化窒素吸入と静注血管拡張薬の減量もしくは中止が可能であった.一方呼吸器離脱後にsildenafil投与にかかわらず肺高血圧関連症状の残存する 2 例でbosentanの追加投与を必要とした.sildenafil投与後の 7 例に一過性であるが軽度の低酸素血症(全例 1 葉以上の無気肺または肺炎を合併)を来したものの,他の重篤な副作用や中止後の肺高血圧リバウンドの発生はなかった.
結語:経口sildenafilは術後急性期肺高血圧治療における簡便,有効かつ安全な選択肢の一つとなり得た.小児におけるsildenafil投与の薬物動態研究の進展と遠隔期への影響の検討により,より完成度の高いプロトコルを確立する必要性が考えられた.

平成19年11月13日受付
平成20年9月24日受理

キーワード

congenital heart disease,pulmonary hypertension,postoperative management,nitric oxide,sildenafil citrate

別冊請求先

〒569-8686 大阪府高槻市大学町 2-7 大阪医科大学外科学講座胸部外科学教室 根本慎太郎