日本小児循環器学会雑誌  第26巻 第5号(416-422) 2010年

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著者

枡岡 歩1),加藤木利行1),鈴木 孝明1),岩崎 美佳1),小林 俊樹2),先崎 秀明2),石戸 博隆2),岩本 洋一2),西村 隆3),許 俊鋭3)

所属

埼玉医科大学国際医療センター小児心臓外科1),小児心臓科2),東京大学心臓外科3)

要旨

背景:2009年の法改正により本邦での小児心臓移植治療が法的には可能となるが,現状では長期間の移植待機が予想される.移植待機中に危機的状態に陥った患児の救命手段は補助人工心臓しかない.しかし本邦では小児専用VADは市販されておらず,成人用VAD装着以外に救命手段がないのが現状である.
対象:2004年6月から2007年5月までの3年間に15歳未満の小児例5例に対し成人用東洋紡社製VADによる循環補助治療を施行した.その内体重25 kg以下の3例をその臨床経過と体重(体表面積)に合わせたVAD至適駆動条件の変遷について検討した.
結果:Case 1 10歳 男児 BW 24 kg(BSA 0.93 m2):LVAD装着後,速やかにMOFを克服し,移植目的に渡独.VAD装着後225日目に渡航先で脳梗塞を発症し,移植適応外となり帰国.VSD装着後697日目に死亡.Case 2 6歳 女児 BW 16.4 kg(BSA 0.72 m2):LVAD装着直後105回/分の条件で駆動.術後10日目に脳梗塞発症.その後血管拡張薬にて血圧をコントロールしながら,full-fill full-empty mode(50回/分)の条件で駆動し,VAD装着後122日目に米国にて移植手術を施行.Case 3 3歳 女児 BW 16.2 kg(BSA 0.66 m2):症例2の経験をふまえ,LVAD装着直後より大量の血管拡張薬を使用しながら,full-fill full-empty mode(46回/分)の条件で駆動し,血栓などのトラブルもなく,VAD装着後145日目に独国にて移植手術を施行.
結語:小児例の少補助流量によるpump内血栓形成を回避するためには,VAD駆動回数を下げ,高血圧対策を行いながら,VAD駆動条件をfull-fill full-empty modeに維持することが重要であった.

平成22年2月3日受付
平成22年6月8日受理

キーワード

left ventricular assist device,cardiomyopathy,end-stage heart failure

別冊請求先

〒350-1298埼玉県日高市山根1397-1 埼玉医科大学国際医療センター小児心臓外科 枡岡  歩