日本小児循環器学会雑誌 第26巻 第5号(434-440) 2010年
著者
石井 卓1),佐々木章人1),梶川 優介1),佐藤 裕幸2),清原 鋼二2),土井庄三郎1)
所属
東京医科歯科大学医学部附属病院小児科1),武蔵野赤十字病院小児科2)
要旨
〔症例〕16歳,男子.〔既往歴〕先天性ミオパチー,気管支喘息.〔経過〕15歳時に拡張型心筋症と診断された.診断後数箇月で心不全症状は急速に進行し,利尿剤,ACE阻害薬,交感神経遮断薬,PDE III阻害薬等の各種心不全治療薬に対して抵抗性となり,国内での心臓移植の方針とした.その準備中に心不全が増悪したため,経皮的心肺補助(PCPS)による心肺補助循環を開始した.PCPS開始後循環動態は安定し,臓器障害は改善傾向を示したが,大動脈弁の開閉はほとんど認めていなかった.人工心臓導入予定日(PCPS開始5日目)に広範な脳出血を来し,人工心臓の導入は不可能となり,PCPS開始9日目に離脱後死亡した.残念ながら剖検は得られなかった.〔考察〕PCPSによる合併症は稀ではなく,時に重篤となるため,早期に次の治療手段へ移行する必要があるが,人工心臓の導入・心臓移植のいずれも現時点では容易に行える状況にない.心臓移植数の大幅な増加が期待できない現状では,人工心臓の安全性の向上および国内における体内植込み型人工心臓の導入が,重症心筋症の予後改善には急務である.
平成22年2月19日受付
平成22年8月12日受理
キーワード
dilated cardiomyopathy,percutaneous cardio-pulmonary support,cerebral hemorrhage,heart transplantation,artificial heart
別冊請求先
〒113-8519東京都文京区湯島1-5-45 東京医科歯科大学医学部附属病院小児科 石井 卓