自治医科大学とちぎ子ども医療センター小児科
白石裕比湖

●診療の大きな前進は移植医療 日本国内において小児脳死ドナーからの心臓移植が可能になった.
 2010年7月17日に施行された「臓器の移植に関する法律の一部を改正する法律」が施行され,虐待が否定できる場合,15歳未満の小児の脳死下臓器提供が家族の承認によって行われることが可能になった.法律は整備されたものの,2010年12月までに国内での15歳未満の小児の脳死による臓器提供は,行われていない.
 小児からの臓器提供による移植が実施されにくい理由の一つは,小児の脳死判定の困難さ,二つ目は虐待による脳死の否定の難しさ,三つ目は親族の積極的同意の困難さが挙げられる.脳死判定を個々の病院スタッフに任せる体制,脳腫瘍など特殊な場合以外での脳死において虐待を完全に否定することの困難さ,脳死を人間の死として受け入れることが困難な土壌(日本人の死生観)があり,それらの改善・改革が重要であろう.
 さらに臓器提供する病院の経済的,人的負担が大きい.臓器提供するには,病院の手術室を含め,携わる医療関係者の負担が大きく,さらに第1例目の臓器提供となればマスコミへの対応にも追われることになろう.小児の臓器提供病院への負担,そして移植コーディネーターを含めた移植医療に拘わる関係者への負担を分析し,その負担軽減のための方策がなされるように厚労省に訴えていくことも必要である.

●日本小児循環器学会の専門医制度 2010年10月24日に,暫定指導医を対象に第1回専門医試験が行われ,無事終了した.その結果が理事会で審議され,2011年4月1日付けで第1回の専門医が認定されて,専門医制度が本格的にスタートする.
 以前の日本小児循環器学会は,「専門領域の学術討論と教育企画を通して診療の質の向上に資する」を目的としてきたが,2006年にNPO法人化した後からは,「専門医の認定と育成を通して,診療の質の向上を図り,社会に貢献する」を目的にして活動してきた.
 小児循環器専門医制度の目的は,1)優れた医学知識と高度の医療技術を備えた小児循環器の専門医を育成する,2)循環器疾患を有するひとへの医学・医療を発展させ,社会の福祉に貢献する,3)専門医は,高度の専門性を維持し,小児循環器医療の水準を保つことである.すなわち,小児循環器疾患の適正な診断および治療管理ができる,そして知識,技能,技術を身につけ,治療計画を立て,家族への指導ができる医療人の育成である.この目標達成のために,2008年4月1日付で小児循環器暫定指導医を認定し,基準を満たす修練施設・修練施設群を認定し,育成にあたってきた.さらに日本小児循環器学会学術集会期間中の教育セミナー,医療安全の講習会(セミナー)を開催し,学術集会期間以外にも,年に2回の教育セミナー,primary courseとadvanced courseを開催している.
 修練施設以外に所属する小児科医にとっての専門医の意味については,例えば学校心臓検診で,精査や継続的医療を要する者が1%程度発見され,その検診業務に専門医が携わることが重要であり,川崎病は,国内で年間1万人発症しその3%程度に冠動脈障害を認めるため,的確な診断と治療ができる専門医の活躍が期待される.
 今年から,小児循環器学会のホームページで小児循環器専門医と修練施設・修練施設群が簡単に閲覧できるようになる.これにより心疾患の患児の適正な診断および治療ができ,治療計画を立て,家族への指導ができる専門医の所在がわかりやすくなる.ご家族にとって,どの先生を訪れればよいか?どこを受診すればよいか?が明確になる.これにより学会が果たすべき社会への貢献が一つ達成される.
 さて,国内の小児医療提供体制の視点では,人口が少ない地域の小児医療が崩壊の憂き目をみている.小児医療が集約化され,小規模な小児医療施設が年々減少している.小児循環器専門医修練施設についても,特に小児人口が少ない地域では単独施設での維持が困難になる.そのような場合,地域での研究会開催の負担もあるが,二県以上からなる修練施設群を形成して専門医育成の質を維持することが求められる.
 今後の専門医制度の方向については,変化する医療情勢に合わせて教育目標を変更し,さらに小児循環器専門医の価値を高めるための行動(例えば,小児循環器専門医を広告可能にする,専門医による医療行為が診療報酬に反映されるように働きかけるなど)が肝要となる.