日本小児循環器学会雑誌 第27巻 第5号 2011年

聖路加国際病院心血管センター循環器内科
丹羽公一郎

 成人先天性心疾患を診療する医師,施設が必要であるということが認識されてから久しい.日本小児循環器学会でも,この分野から多くの演題が採用されている.日本成人先天性心疾患研究会が学会となり,今年の学会では,350人もの参加者があった.また,成人先天性心疾患セミナーも200人以上の参加者がある.世界に目を向けても,若手医師に対して成人先天性心疾患の教育が行われ,AHA,ACCさらに欧州心臓病学会でも,多くの演題が採用されるようになっている.アジアでも,13カ国で,成人先天性心疾患外来が開かれている.米国では,最近成人先天性心疾患は,内科のsubspecialtyの1つとして認められた.画期的なことである.
 一方,成人先天性心疾患の患者さんの増加は,日々顕著である.日本のどの地域の心臓病の子どもを守る会,心臓病友の会(心友会)でも,成人となった患者さんの診療をする施設をどのようにみつけるか,あるいは,その地域にどのようにして作っていくかということが大きな問題となっている.診療をする施設も大切であるが,成人先天性心疾患を専門にみようとする訓練を受けた医師,医療チームがまず必要である.しかしながら,成人先天性心疾患を専門にみようとする医師は非常に少ない.いまだに,循環器小児科医がみるか循環器内科医がみるか,というレベルから抜け出せない.循環器小児科医か循環器内科医かという背景とは関係なく,成人先天性心疾患を専門とする医師が必要である.成人先天性心疾患という分野がsubspecialtyであるからには,専門性が要求され,少なくとも複雑とされる疾患は,成人先天性心疾患を専門にみようとする医師が診療に関与することが望ましいことはいうまでもでもない.
 このような医師を養成するためには,何が必要だろうか? まず,若手から中堅医師に対する教育と彼らをこの分野にリクルートすることが必要である.循環器科医には循環器小児科の,循環器小児科医には循環器科の教育が必要とされてきている.このことは真理であるが,若いころに研修を受けていない分野での訓練は苦痛である.これを乗り越えるためには,成人先天性心疾患の診療部門での研修が必要であるし,成人先天性心疾患の診療部門であれば,循環器科医,循環器小児科医のどちらにとっても,比較的順応しやすい.
 私が成人先天性心疾患の分野に飛び込んだのは,15年以上も前である.小児科にいた頃は,患者さんが思春期を過ぎ,成人となると自分から遠ざかるような印象があったが,成人先天性心疾患を経験すると自分に近づいてくる(子どもの将来の方向性を読みながら,自分に向かってくる)印象を持てるようになった.多分life spanとしてとらえられるようになったのだと思う.私は,この4月に聖路加国際病院の循環器内科に移り,成人先天性心疾患の診療を循環器科医として継続している.循環器内科に移って間もないが,今では加齢とともに生じてくる循環器系の老化を成人先天性心疾患に重ねながらみることができるように感じている.同時に,循環器内科に移って,循環器科の一部門としての成人先天性を若い医師に教育できる機会に恵まれた.意外に若い医師たちも成人先天性心疾患の診療に大きな抵抗感はなく,循環器内科の一部門としてとらえてくれているらしい.そのようにみてみると,循環器科は,成人先天性心疾患の研修を行いやすい環境に思われる.今後,成人先天性心疾患の診療を身につけた新しい若い循環器科医が育ってくれることを期待している.しかし,問題がないわけではない.循環器内科と循環器小児科のcollaborationは,いつの時代も絶対に必要である.循環器科医だけでは,患者さんは集まらない.こども病院とのaffiliationが必要で,患者さんの成人先天性診療施設へのスムーズな移行ができてこそ,初めて,成人先天性心疾患の診療は有機的に動くようになる.
 現在,循環器科医を中心として,日本の各地に成人先天性心疾患の診療を行う施設を広げようとしている.しかし,その場合にも,その地域の循環器小児科医との患者さんの受け渡し,移行が絶対に必要であることはいうまでもない.日本小児循環器学会の先生の協力のもとに,ぜひ,先天性心疾患患者さんの成人先天性心疾患診療施設へのスムーズな移行という動きを広げたいと考えている.