日本小児循環器学会雑誌 第27巻 第6号 2011年

静岡県立こども病院循環器科
小野 安生

 2010年7月17日に「臓器の移植に関する法律」の一部改正により,本人の意思が不明の場合には,家族の同意で脳死臓器移植が可能となり,15歳未満からの脳死臓器移植が可能となった.1997年以来,日本小児循環器学会臓器移植委員会のワーキンググループによる心臓移植適応例の全国集計の積み重ねを中心とした活動が,事態の進展に多少なりとも寄与したと思っている.しかし,このことは,小児の心臓移植医療定着へのほんの一歩に過ぎないことは,日頃小児循環器疾患の診療にあたっている会員にとっては自明のことである.ここでは,小児心臓移植の現況と展望について述べる.

  1. 心臓移植適応基準
     心臓移植の適応基準に関しては,これまで日本循環器学会(日循)において成人を中心とした心臓移植の適応基準が定められ,その基準に従い日循の心臓移植適応検討小委員会が申請書類を審査している.その審査で適応と判定された場合に臓器移植ネットワークの待機リストに登録することができる.この間,日本小児循環器学会(小循)臓器移植委員会では,成人との相違を小児の基準として盛り込むために検討を重ね,2011年の日本小児循誌循環器学会雑誌(日小児循環器会誌2011; 27 (3) : 150-159)に掲載した.また,日循の申請書類も小児用(10歳以下)として完備されている.
  2. 移植待機について
     日本臓器移植ネットワークによれば,2011年9月現在,心臓移植待機者は195名,うち0~9歳10名,10~19歳11名である.成人のドナーは,法改正以前は年間10名前後で推移していた.2010年1月から7月は3名であったが,法改正後の同年8月から12月は20名,2011年はこれまでで23名である.増加しているとはいえ,待機期間の減少までには時間がかかると思われる.小児年齢でのドナーはこれまで2名で,始まったばかりとはいえ,待機期間の問題は大きい.成人ではLVADや植込み型人工心臓などが利用できるが,小児とくに体重の少ない小児や幼児にとっては,現在こうしたデバイスが利用できないのでさらに深刻である.利用できても,短い待機期間で移植手術に至らなければ,真の意味での有効とはいえない.海外渡航が徐々に制限されるなか,担当医の悩みはつきない.
  3. 移植医療施設
     現在,11歳以上の心臓移植は成人の移植が可能な施設で行える.10歳以下の小児は,東京大学,大阪大学,国立循環器病研究センターの3施設で行うことになっているが,今後,小児の心臓移植施設は、多少増えることが予想される.これらの施設では,さまざまな施設基準により,移植前後の管理体制が整っている.医師以外のスタッフは基準により充実しているであろうが,術前管理,術後管理を担当する小児循環器医が疲弊しないような体制になっているだろうか? さらに,通信網の発達により移植施設と待機管理あるいは術後管理施設との関係は以前に比べ良好な状況となっているが,知識の共有を含め地域の病院とのネットワークをさらに充実させる必要がある.
  4. ドナーアクション
     ここまでは,会員であれば多かれ少なかれ直接関連する問題であるが,ドナーサイドの活動が今後は重要になると思われる.現在,臓器移植ネットワークなどが学校関係での活動(命の大切さ,死を考えるなど)を行っているが,こうした活動への協力や移植後患者のスポーツ大会などのイベントの広報や参加への協力などが考えられる.

 本邦における小児の心臓移植は,まだ始まったばかりで前途多難であることは間違いないが,一歩一歩前進することが大切である.