日本小児循環器学会雑誌 第26巻 第4号(300-307) 2010年
著者
藤井 隆成1,3),森 善樹1,4),岸 勘太1),黒沢 博身2),中西 敏雄1)
所属
東京女子医科大学循環器小児科1),心臓血管外科2),昭和大学小児科3),聖隷浜松病院小児循環器科4)
要旨
背景:Glenn術後,またFontan術後のチアノーゼ増悪の原因の一つとして体静脈側副血行路の発達がある.しかし本邦での報告は限られ,特に体静脈側副血行路発達の危険因子,またその臨床経過は不明である. 目的:Fontan術後患者における体静脈側副血行路の発達の頻度,危険因子,その臨床経過を明らかにすることである. 方法:心臓カテーテル(心カテ)検査を施行したFontan術後患者171例を対象とし,診療録から後方視的に検討した.心カテ時の大動脈酸素飽和度が95%未満で,かつ体静脈系の造影で左房・肺静脈につながる異常な静脈血管を認めるものを有意の体静脈側副血行路と定義した.解剖学的,術前,後の血行動態の指標を危険因子として,側副血行路のある群とない群で比較した. 結果:体静脈側副血行路の発達はFontan術後患者の21%(36/171例)にみられ,36例中19例(53%)でFontan術後1年以内に確認された.Fontan術後初回検査以降にフォローアップカテを施行した25例において,大動脈酸素飽和度(90±4%)は初回検査時(91±4%)と比較し,この期間(5.3±3.3年)で変化はなかった.一方,体静脈側副血行路は約半数で造影上太くなるのが確認された.主心室形態,術前の肺動脈圧,肺血管抵抗,Nakata index,また術後のtranspulmonary pressure gradient,中心静脈圧,心係数は体静脈側副血行路の有無で差はなかったが,内臓錯位症候群では体静脈側副血行路がみられる症例が有意に多かった(p<0.01). 結論:Fontan術後患者では体静脈側副血行路発達は稀でなく,特に内臓錯位症候群のFontan術後で,より高頻度にみられる.また時間の経過とともに側副血管の径は太くなり,発育することがあるが,安静時の大動脈酸素飽和度には変化がなく,注意が必要である.
平成21年7月14日受付
平成22年3月5日受理
キーワード
Fontan,systemic venous collaterals,cyanosis heterotaxia,desaturation
別冊請求先
〒430-8558 静岡県浜松市中区住吉 2-12-12 聖隷浜松病院小児循環器科 森 善樹