心・血管修復パッチ 適正使用指針

 今般、本邦において新しい心・血管修復パッチ(販売名:シンフォリウム、承認番号:30500BZX00169000)が販売されることになりました。本品は、生分解性糸(PLLA糸)と非生分解性糸(PET糸)を用いたニット構造の生地に、架橋ゼラチン膜でコーティングした製品です。本品を心臓外壁および血管壁へ埋植すると、生分解性成分の吸収過程で製品を置換するように自己組織が再生される特徴をもっています。この自己組織による壁は、栄養血管を伴う生きた組織であることが非臨床試験で確認されています。さらには石灰化に代表される材料劣化が生じにくく、非生分解性部分が伸張可能な構造を有しています1),2),3)。これにより、従来の心・血管修復パッチよりも材料の交換を必要とする再手術リスクを低減させることが期待されます。
 本邦における臨床試験では、主たる適応である先天性心疾患に伴う狭小部位の拡大のため、肺動脈又は右室流出路に本品が埋植された小児から成人例で良好な成績が得られました。また、本品が埋植された心房中隔および心室中隔欠損閉鎖例でも従来製品に遜色ない成績が得られました。一方でこの臨床試験では大動脈への埋植例の登録はありませんでしたが、大動脈と同等の高圧系とされる心室中隔欠損閉鎖術に用いられたこと、および非臨床試験での大動脈埋植例で出血や瘤化を認めなかったことから、安全性上の懸念は低いと考えられています。
 しかしながら、大動脈埋植後に出血や瘤化が生じる懸念は臨床試験からは直接に払しょくされなかったため、大動脈形成術等に使用するには、起こりうるリスクを最大限に考慮して適用することが重要と考えます。心・血管修復パッチの適正使用については、医薬品医療機器総合機構からも日本小児循環器学会へ協力が要請されています。
 なおシンフォリウムを使用する全ての症例は、使用成績調査(PMS)の対象となり、大動脈への使用については下記基準での認定を受けた施設での実施に限られます。

1.シンフォリウムの使用対象

  • 先天性疾患における心臓・血管の狭小病変に対する拡大を行う別表に掲げる手術を対象とする。
  • 心房中隔欠損閉鎖術および心室中隔欠損閉鎖術の単独のものは対象とはならない。ただし同一症例において合併する心内欠損孔の閉鎖に本品を使用することは可能である。

2.1における大動脈埋植の対象

  1. 大動脈弓形成手術:大動脈縮窄(離断)症手術K567、左心低形成症候群手術(ノルウッド手術)K587
  2. 大動脈拡大手術:大動脈弁上狭窄症手術K557、ダムス・ケー・スタンセル(DKS)吻合を伴う大動脈狭窄症手術K557-4
  3. 大動脈壁補填手術:大動脈肺動脈中隔欠損症手術K568

3.大動脈埋植実施に係る施設基準

  1. 大動脈埋植の実施では、上記「大動脈埋植の対象」の対象に列挙した手術経験を有する施設であること
  2. 日本小児循環器学会専門医修練施設又は修練施設群内修練施設、かつ日本小児心臓外科医会の会員施設、かつ心臓血管外科専門医認定修練施設であること
  3. 製品不具合の発生に対し、速やかに対処し得る治療体制を有していること
  4. 製造販売業者又は学会等が実施するトレーニングを受講した施設であること
  5. 製造販売業者が実施する使用成績調査に参加すること

以上を申請書に記載必須項目として列挙した。

4.配慮事項

 対象患者の大動脈への拡大は段階的に行うこととし、大動脈埋植の実施前には、肺動脈、右室流出路、またはその両方への本品の埋植手術を4例以上経験し、かつ術後1ヵ月以内に本品が明らかに原因となる有害事象の発現がなかったことを確認すること。

5.登録方法

 PMS登録および大動脈埋植への本品使用の移行を考慮している施設は、日本小児循環器学会および日本小児心臓外科医会で設置する『ワーキンググループ』(以下、WG)に登録し、施設基準判定を受けなければならない。

  1. WG担当委員(jspccs-synfolium@umin.ac.jp)に、審査申請書を電子メールで送信する。
    ※一次申請期限:2024年3月31日(日)
    ※捺印後PDF化したものを送信すること。但し捺印に時間を要する場合は先にExcelファイルでの提出を認める。
  2. WGで希望施設の集約後、WG担当委員で審議する。
  3. WGでの審議終了後、各医療機関に結果を通知する。

6.実施にあたっての留意点

 添付文書の内容を必ず確認すること。

6.1 インフォームドコンセント

 実施にあたっては、慎重にインフォームドコンセントを実施すること。インフォームドコンセントにおいては、少なくとも、下記の事項について説明を行う。

  1. 病名・現在の病状・手術が必要な理由
  2. 既存の治療およびその成績
  3. 手術名・手術の方法・麻酔の方法・手術にかかる時間
  4. 手術後に予測される経過
  5. 手術に伴う危険性(心タンポナーデ、心膜切開後症候群、無菌性膿瘍、出血、炎症等)
  6. 手術をしない場合の経過・代替可能な他の治療法
  7. 診療情報の2次利用(学会調査への登録など)

6.2 術前、術中、術後の留意点

 使用方法については添付文書を順守し、以下について留意すること。

  1. 術中は本品埋植による問題が生じた場合は、既製品への交換を躊躇してはならない。
  2. 一般的検査に加え、心臓超音波検査により埋植部の観察をおこなう。
  3. 術後は、出血、感染などに注意した管理を行う。

7.付帯事項

  • 今後の国内での使用成績調査の結果などを踏まえて、本適正使用指針は随時改訂を行うものとする。
  • この指針は、臨床試験での観察期間を鑑みて3年後に見直すこととする。

2024年3月1日

特定非営利活動法人 日本小児循環器学会
理事長 山岸 敬幸

日本小児心臓外科医会
代表幹事 坂本 喜三郎

参考文献

  • Nemoto S, et al. In situ tissue regeneration using a warp-knitted fabric in the canine aorta and inferior vena cava. Eur J Cardiothorac Surg. 2018;54(2):318-327.
  • Nemoto S, et al. Long term viability and extensibility of an in situ regenerated canine aortic wall using hybrid warp knitted fabric. Interactive CardioVascular and Thoracic Surgery, 2021; 33: 165 172.
  • Nemoto S, et al. Long-Term Maturity and Extensibility of an In Situ Regenerated Aortic Wall Induced by a Novel Synthetic Hybrid Knit. Circulation 2022; 146: Abstract 10935