平成29年6月19日
理事長挨拶
安河内 聰

 早いもので、私を日本小児循環器学会の理事長に選んでいただいてから4年が経ちました。この4年間は、ちょうど日本小児循環器学会が発足して50年というturning pointにあたり、今まで蓄積した学会としての力をあらたな次元に発展飛躍させるダイナミックな変革の時でした。この変革の時に、会員の皆様のさまざまなお力をいただき、なんとかここまで学会の仕事を続けさせていただいたことを心から感謝申し上げます。
 この日本小児循環器学会という学会は、世界的にも非常に希有の存在の学会で、発足当時から小児循環器科医と心臓血管外科医がともに「心臓病のこどもとその親のために」少しでもよりよい医療という目的のために切磋琢磨して素晴らしい学会です。 最近になってようやくアメリカや欧州の学会や国内の成人循環器の領域でも「ハートチーム」という言葉が盛んに強調されるようになりましたが、私たちの学会は発足当時からこの信念にもとづいて行動してきた歴史があり、海外の学会からも私たちのシステムにならって「チーム医療」を目指すようになっています。 さらにこの「チーム医療」の考えは、ともに働く看護師や臨床工学士など多領域専門職のチームとの共同作業も発展させてきました。
この点で、私たちの学会をこれまでガイドされてこられた先達の先見の明に感謝するとともに、改めて私たちの学会を誇りに思います。
 ただ、私たちのゴールは「今」ではありません。 まだまだ私たちは発展途上で、これから解決しなければならない多くの課題が残されています。
 日本で発生する心疾患の実態を把握して、よりよい診断のための制度や治療の体制を構築する必要があります。このためのデータを全国的に集積して情報を共有することが重要です。また、これらの実態を基に、日常診療で使用する薬やデバイスについてもきちんと小児適応を得て、有効かどうかエビデンスをもって使えるよう小児臨床治験を進めることも必要です。
 診療体制についても、重症例の相談窓口設置や遠隔診断などの施設や地域の枠にとどまらない診療のネットワーク作りはもっと充実させる必要があります。
 さらに、『心臓とともに生きる』こどもたちのために、生涯医療として小児期の医療ばかりでなく、小児期から成人期への移行医療診療体制を構築することは待つことができない問題です。
 さらに私たちの抱えている大きな課題は、次の50年のための『次世代育成』という課題です。 今までの50年をさらに発展させるためには、次世代をになう若手会員の皆様の活躍が不可欠です。 Global communicationが当然のようになった今日の医療の中で、会員の皆さまには国内交流ばかりではなく欧州小児循環器学会(AEPC)やアメリカ心臓病学会(AHA)などの海外学会との間で始まった「若手海外短期交換留学研修制度」などを積極的に利用していただき、世界的な交流のなかで日本からの情報発信を含め活躍をしていただきたいと思います。
 また小児の難しい心臓手術をこれから担当しようとされる若い心臓血管外科医の皆様のためには、施設の枠を超えて研修できるような全国的な研修教育制度の整備が必要と思われます。内科と外科がともに協力して向上しなければ患者のためのよい医療ができないことは過去の歴史が証明しています。この次世代を担う心臓血管外科医の育成は喫緊の課題であり、真剣に取り組まなければならない重要な課題と考えます。
 たくさんの課題を積み残してしまいましたことは全て理事長である私の力不足のためで、会員の皆様には心からお詫び申し上げます。 次の新しい理事長の指導の下心機一転解決していただくようお願いしたいと思います。

 最後に、この4年間を通して確信できたことは、私たちの学会には「夢」があり、これらの課題を確実に乗り越えて患者のためにもっと発展できる力があるということです。
 この夢の実現のためにも、もう一歩踏み出す勇気と力を信じて、ぜひそれぞれの立場で、それぞれのやり方で、行動していただきたいと思います。

One more step up

その一歩が日本の小児循環器学の未来をきっと切り開いてくれるものと心から信じています。